焦 点

頻脈性不整脈のアブレーション治療における
視覚的な新兵器・エレクトロ・アナトミカルマッピング

県立広島病院循環器内科部長 岡 本 光師

 頻脈性不整脈の治療は,10年くらい前までは,主として薬物療法が主体でありました。しかし,夜間に救急で運び込まれる患者さんを治療する医師の方は,また,この人が来たかと思うほど,当直医にとって悩ましいものでした。それにもまして大変なのは動悸がして苦しい患者さんの方ですが,病院に到着して治療を受けるのはまだよい方らしく,「病院に到着する前に救急車の中で,発作が止まってしまうのは実にきまりが悪い」というのを患者さんから聞きました。頻脈性不整脈に対する非薬物治療である高周波カテーテルアプレーション治療は,起こっている不整脈に対しては半永久治療で,薬物療法が不要になります。当院でも,この方法を開始してから9年となり,その症例数も360例以上に達し,WPW 症候群,房室結節性頻拍症,心房粗動などのアブレーションは,ほぼ確立した方法になっています。成功率も90%以上で,また,PTCA などの冠動脈インターベンションに比べ,致死的な合併症も少なく,かつ,再発率も PTCA の再狭窄率に比べて少ないことが判明しています。しかし,心房細動,左房の頻脈性不整脈,血行動態の不安定な心室頻拍などに対するアブレーションは,まだ十分確立した方法とは言えません。32極などの多極の電極カテーテルを用いるとしても,数ミリの先端で広い心内腔に存在する不整脈の発生起源を同定することは,必ずしも容易ではないし,不整脈の原因がマクロリエントリーかミクロリエントリーか直ちにわかるものでもありません。
 最近,電極カテーテルの先端をカーナビに用いられている GPS のごとく,磁場(GPS では電波)によって空間的にその位置を認識し,局所の電位の大きさ,時相などを同時に解析することにより,電気的解剖学構築を描出できる electroanatomical mappingCarto)が開発され,当院でも昨年4月に導入されました。この新兵器を開発したのは,アメリカでもロシアでもなく,中東紛争が絶えないイスラエルであります。戦争兵器だけでなく,医科学兵器にも力を入れているようです。この新兵器によって,不整脈がマクロリエントリーによるか局所の自動能ないしミクロリエントリーなどによるものか一目瞭然で機序が明らかになるとともに,アブレーションの至適部位も推定できるようになりました。簡単に原理を紹介すると,患者の背面の検査台に正三角形をした枠組みの各項点から磁場を発生させ,カテーテルの先に装着したセンサーで磁場の強さを感知し,カテーテル先端の空間的認識をさせます(図1)。同時にその場所の電位の大きさ,時相を計測します。時相のリファレンスには冠状静脈洞の電位,ないし右心耳からの電位計測を基準とします。われわれの施設では前者を基準としています。これを
数十ケ所計測,合成することにより,解剖学的構築と同時に各所における電気興奮様式(isochronal mapping)(図2・右房起源心房頻拍の isochronal mapping,左前斜位,暖色系が時間的早期性を示し,寒色系が時間的遅れを示す。心房頻拍の起源は右房下部背側の冠状静脈洞の近くであることが示されている。SVC =上大静脈,IVC =下大静脈)と同時にリアルタイムに電気の伝搬を表す propagation mapping(図3・図2と同一症例の心房頻拍で,左より順次時間が経過。赤色の電気的興奮が右房下部の focus から広がっているのがわかる。不整脈の機序は,ミクロリエントリーないし自動能亢進と考えられる。),電気の大きさ(voltage mapping)の三次元表示が完成する。これに,上大静脈,下大静脈,三尖弁輪,冠状静脈洞などの解剖学的位置をマーキングできます。この三次元画像の完成には20分くらいの時間を必要としますが,慣れてくるとX線透視なしに検査が可能です。また,この電極カテーテルはアブレーション用にも使用可能で,異常電位の発生部位を画像で確認して,その位置で照射が可能です。しかし,局所の情報を数十ケ所収集するということで,安定した不整脈が15−30分持続するという前提条件があります。Shah らは electroanatomical mapping の導入により,通常型心房粗動の右房興奮様式を明らかにし,三尖弁輪ないし cristaterminalis から心房中隔に向けて反時計方向に回るマクロリエントリーを証明しています。また,Jais らも本法を用いて非通常型心房粗動22例中17例で左房のマクロリエントリーを証明し,16例で線状焼灼に成功し,本法を用いれば左房の心房頻拍にもアブレーションが比較的容易
に拡大できることを明らかにしています。さらに,広島大学出身で現在アメリカのオクラホマ大学の助教授をしている中川 博先生らは先天性心疾患の術後のマクロリエントリー性不整脈における瘢痕と瘢痕の間の critical narrow channel を明らかにすることによって,1−3回の通電でアブレーションに成功しています。このように,これまでの方法ではその機序さえわからなかった特殊なマクロリエントリー不整脈の根治までも本法によって可能になってきています。われわれの施設でも,心房頻拍その他,20例くらいの症例に本法を用いています。心房頻拍に使用した6例中5例は単なる自動能亢進,あるいはミクロリエントリーと思われる心房頻拍で focal ablation の局在が一目瞭然となり(図2,3),アプレーションに成功しました。これらの中には通常の方法で再発した症例や,肺静脈開口部付近の左房の頻拍症も含まれています。アブレーションはしていませんが,心房頻拍が左房のマクロリエントリーであることを本法によって解明した症例もあります。その他,心房粗動のアブレーション後の再発例では,作成したブロックラインのどこに隙間があったのか,解明することができます。このように,electroanatomical mapping は非常に有用ですが,まだ,検査時間がかかるため,非持続性の不整脈や cycle length が不安定な不整脈には適応できない問題点があります。今後のさらなる技術の発展が待たれるところです。


戻る