記事一覧

【基町悠吉のつぶやき22 原コラムNo,4】

「有終の美」

高齢者が加害者になっている事故のニュースが後を絶たない。
高速道路での逆走、アクセルとブレーキの踏み間違いなど加齢からくる判断不足などで
重大事故を引き起こしてしまう。そういうニュースを耳にするたびにそれまでになんとか
運転を止めることはできなかったのかと胸が痛む。

うちの実家の父も例外ではなかった。(なんとか間に合った、というべきか・・)
父もご他聞にもれず、御年87歳の昭和生まれの頑固親父で、全く妻子の忠言に聞く耳を持たない。
仕事を10年前にリタイアしてから“我が道を行く”で毎日毎日、山河巡りで車を乗り回していた。
父の運転がおかしい、怖いと毎日一緒に同乗している母が相談してくるが、子供らは皆切迫感がないもの
だから、口先で「もう、乗ったらダメよ。」などと適当に口を汚し、真剣に考えて無かったと思う。(すいません。)
とうとう母が行動を起こした。
嫌がる父を近所の総合病院の脳外科を受診させ、MRIをとると案の定、脳萎縮が見られた。
母から受診した経緯を聞くと担当の先生は「まだ、この状態で車に乗っているんですか」と驚かれたという。(全くもって申し訳ない。)
ここからの先生の手腕がすごい。
まず、父に「もう、お車に乗るのは、止めませんか?」とやんわり牽制をかけ、
父は「乗れんと色々困るもので・・」と返答。
先生「今まで、長年立派にお仕事をされてきたんですよね。」と持ち上げ、
「どうです。ここらで有終の美を飾りませんか。」と畳み掛けた。
この先生の言葉に対して母から、あの頑固な父が「はい。」としか答えることができなかったと聞いた。
まだ若い40代の男性の先生だったという。
日に何人もこんな患者を相手にされているかも知れないが、親子以上年配の患者に対してうまぁく「はい」と
言わせることも仕事も一部なんだなぁと改めて感心した。
母はその場にいて二人のやりとりを聞きながら、先生の言葉に胸が熱くなったという。

我が家の場合は、母の決心と先生のお言葉で事故を起こす前に、本人の気持ちを考慮し(ここが大事)車の運転を止めることができたが、同じように頑固親父の処遇に困惑しておられる方も多いのではと思う。
車が運転できなくなると、行動範囲が狭くなり、自分の世界がどんどん狭まってくる。車に乗ると神経痛で痛む足腰に負担かからないし、1日中でも遊んでいられるし、買い物の送迎という大役もある。自分さえしっかりしていれば、と自分に言い聞かせているうちに、過信してしまったようだ。(あくまでうちの場合ですが)
気持ちが理解できるだけに、まわりは辛いものがあると思う。