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~本当に怖かったのは~

仕事がもうすぐ終わる18時前、居宅の電話が鳴った。

ヘルパー事業所の責任者からで、支援しているAさん方の誰も居ないはずの2階から足音がした、と言う報告だった。
Aさんは古い大きな家にひとり暮らし。
「上がって見てくれればよかったのに」と伝えると
「怖くて、とりあえず2階に上がる階段のドアに紐をくくりつけて帰って来ました」との事。

もう日が暮れかかっている。

「じゃあ私が今から行ってみます」電話を切ると、居宅の男性職員Kさんが「一緒に行きましょうか」とついて来てくれることになった。
行くとAさんはいつもと変わらず車椅子に座っておられた。
どうして来たのか説明すると「そんなことはありませんよ~」と動じない。
同僚のKさんですと紹介し、2階を見てきますと伝える。
階段のドアに巻かれた紐を見るとヘルパーの恐怖が伝わってくる。
Kさんは念の為にと、そこにあった座布団を手に(一応襲われた時の刃物避けのつもり?)私は後ろをついて行く。

・・・誰も居ない・・・

降りてきてAさんにそのことを伝えると「そりゃ、そうですよ。誰も居ませんよ」と。
Kさんは「一応1階も見ておきますね」と行った。
しばらくAさんと話をしていると急にAさんが怯えたような表情で声をあげた。
「あれは何ですか?」
振り向くと視線の先にはKさんが立っていた。
「Aさんあれはさっき紹介した同僚のKさんです。」
「・・・」
「ああ、そうですか」

Aさんを怖がらせたのは姿が見えない2階の足音ではなく、いつもは見慣れない男性職員Kさんだった。

                                  清見 久美子